日本人は、中学生から高校生まで6年間も英語を学んでいるはずなのに、なぜ英会話をできる人が少ないのでしょうか。
6年もの時間を費やして、全く英語を話せない日本人も多く、やはり「学校の英語教育に問題があるのでは」と考えずにはいられません。
本記事では、日本の英語教育は海外の英語教育と比べてどのような点に問題があるのか、詳しくご紹介します。
日本の英語教育の問題点4選
日本の英語教育の問題点は、以下の通りです。
【日本の英語教育の問題点4選】
- 英語習得の動機付けから失敗?受験のための英語という印象を与える教育法
- 正しい英語を学ぶことにとらわれすぎて、実際に使われる英語表現を無視している
- 単純に学習時間と学習量が足りない
- 外国語指導助手(ALT)が有効に活用されていない
それぞれの項目について、詳しく説明します。
英語習得の動機付けから失敗?受験のための英語という印象を与える教育法
日本の勉強は英語に限らず、高校、大学受験が最終目標であるような教育法であることは否めません。
実際に、文部科学省が「なぜ英語勉強が必要か」という質問を中学生にした結果は、以下の通りです(複数回答可)。
画像引用先:文部科学省「平成26年度英語教育実施状況調査」
また、英語が好きかどうかについて質問した結果が、以下の通りです。
画像引用先:文部科学省「平成26年度英語教育実施状況調査」
つまり、上記の2つの表からわかるのは「英語学習は好きじゃないけど、学校で必要だから英語勉強をしている」というのが中学生の現状です(ひどく言えば、いやいや英語勉強をしている)。
そもそも英語勉強は、外国人と話す手段として、コミュニケーションツールの一つとして学んでいるのに、中学生の解釈が「受験のため」になってしまっているのは、日本の英語教育の大きな問題点の一つと言えます。
英語勉強に限らず、何かを習得する・勉強する上で一番大事なのは、外的要因ではなく内的要因。
たとえば、誰かに言われたから英語勉強するよりも「自分が外国人と話したいから英語学習をする」「自分が好きだから英語学習をする」という動機の方が、インプットもアウトプットもグッと上達するのです。
このことから日本の教育は、動機付けの時点から失敗している言えるのかもしれません。
「英語が好きだから、楽しいから勉強している」と思いたいよね。
正しい英語を学ぶことにとらわれすぎて、実際に使われる英語表現を無視している
ALTをしていたレノボ・ジャパン社長のデビット・ベネット氏は、「暗記と文法主体の学習に偏りがち」と話しています(参考:東洋経済オンライン)。
事実、日本人は英語を読んだり、書いたりすることは得意かもしれませんが、聞いたり、話したりすることは不得意な人が多いです。
他にも、デビット・ベネット氏は、日本人は文法能力は高いのに、実際に会話には必要のない知識が多いとも話しています。
たとえば、教科書によく出てくる「Hi, how are you?」という挨拶。間違っているわけではありませんが、これは古くて固い表現で、日常英会話の中ではほとんど使われていません(友人間ではWhat’s up.などが使われる)。
日本の英語教育は「正しい英語を学ぶ」「正しい文法を学ぶ」ということにとらわれすぎて、実際に使われる英語表現を無視していると言えるのではないでしょうか。
英語を勉強する本来の目的はコミュニケーション力をあげることなのに、日本人は諸外国のように外国人と関わる機会が日常的にありません。
そのせいか、日本人の意識には「英語は5教科の一つ」「英語は勉強だ」という認識になってしまいます。
正しい英語も大事だけど、もっと他に大事なことがある気がするでごんす。
単純に学習時間と学習量が足りない
文部科学省「中学校標準授業時間数」を参考にすると、中学3年間で外国語の総時間数は420時間。
文部科学省「高等学校標準授業時間数」を参考にすると、高校3年間で(1単に50分)外国語の総時間数は1,050時間(単位数:21)。
中学と高校の総時間数を合わせると、日本人の英語学習総時間は1,470時間ということになります。
中学校と高校に通った人は、最低でも約1,500時間は勉強しているということです(自宅学習を除いて)。
英語が話せるようになるための目安として、よくU.S. Department of Stateの「英語のネイティブスピーカーが日本語を習得するまでには2.200時間が必要」という調査結果が使われます。
逆に、日本語のネイティブスピーカーが英語を習得するまでにも2,200時間は必要だろうということですが、上述した日本人の英語学習総時間と比較すると、730時間足りていません。
この730時間は自宅学習で補うしかありませんが、部活や習い事、アルバイト、友達と遊ぶなど、忙しい学生時代に、730時間の英語勉強を確保するのは非現実的。
そもそもそんなに英語勉強に時間をかける意識はないかもしれません。それは日本の教育は以下に無駄が少なく試験で高得点をとることが勉強の主目的となっているためです。
単純に、英語学習時間が足りていない、つまりは学習量が足りていないために、英語が身に付かないのも問題点の一つです。
日本の今の英語教育を2,200時間にしたところで、限界がある気もする。
外国語指導助手(ALT)が有効に活用されていない
2017年上智大学「小学校、中学校、高等学校におけるALTの実態に関する大規模アンケート調査研究」を参考にすると、日本の指導言語のについて、ALT講師は以下のような印象を持っています。
ALTからみる日本の英語教育の問題点
- 教員が説明をして生徒は聞いているだけの状況が多い
- 文法の対する比重が大きすぎる
- 大学入試対策がほとんどである
- スピーキング要素が少ない
- 会話で必要な単語力が足りない
他にも、複数のALTが強調していたのは「正しい文法を教えるだけでなく、外国人に話しかける勇気や自信を育むような英語活動の重要さ」、「日本の学生は英語でのコミュニケーション能力を磨く機会が少なすぎる」という指摘です。
ALT講師のなかには、英語教員法として知られるTESOL習得した講師、4年生大学での学位を持っている講師、中にはCELTAと言われるケンブリッジ公認英語教育資格保有者など、十分な経歴を持っている講師が多いことがわかっています。
しかし、ALT講師が日本の教育の問題点に気づいたとしても、日本の学校の多くは日本人教員が最終的な決定権をもっているため、このような状況が改善されるのは難しいのかもしれません。
日本は多くの経験を持ったALT講師を導入して30年になるのに、ALT講師の経験を活かせているとは言えない状況です。
もちろん、日本人教員としっかり連携をとって良い授業をしているところもあるでごんす。
2020年日本の英語教育が変わった、何が変わったの?
2020年度から、日本の小学校にて5~6年生を対象に英語の必修科目化が始まりました。
英語を使ったコミュニケーション能力を高め、言語だけでなく背景にある分野や社会、人の考え方などを理解して英語で意見をはっきりと言えることが大きな目的となります。
また小学校3~4年生は「外国語活動」として年間に35コマ体験型の授業がカリキュラムに取り込まれ、教科書などを使わず、歌やクイズなどを通して挨拶や簡単な質問に英語で答えられるよう工夫していくようです。
小学校5~6年生は年間70コマの授業が必修科目として設定されました。
日常生活などの実践的な英会話をできることが目的となっています。
小学生のうちに、これまで日本人が苦手としていた「話す」「聞く」の能力を伸ばし、中学生になってから「書く」「読む」の能力を取り入れ、英語4技能を伸ばすことが大きな目的なのです。
これらの英語教育の変更により、習得する語彙数も大幅に増加します。
さらに大学入試も改革され、小学生から培ってきた英語4技能が入試にて問われるようになります。これまでのような選択問題が減り、意見などを述べる問題が増えるようになります。
参考:文部科学省「新学習指導要領について」
世界ではどのように英語を教育している?
それでは英語を母国語としていない国では、どのように英語を教育しているのでしょうか。
文部科学省「諸外国における小学校段階の英語教育の状況」を参考に、外国ではどのように英語を教育しているのか紹介します。
韓国の英語教育
韓国の英語教育は、以下の通りです。
韓国の英語教育 | |
英語勉強開始時期 | 小学3年生 |
授業時間 | 3~4年:週1単位 5~6年:週2単位 (1単位40分) |
教育目標(一部) | ・英語に興味と自信を持つ ・意思疎通を図れる基本的能力を育成する ・日常生活と一般的な話題に関して無理なく意思疎通ができる ・外国の多様な情報を理解する(これを活用できる能力を養う) |
教育内容 | 3年生:「聞く」「話す」 4年生:「読む」 5年生:「書く」 6年生までに450語程度、英単語を履修する |
英語後進国である日本に対して、韓国は英語先進国です。
しかし、韓国はもともと英語に力を入れている国というわけではなく、ここ10年の間に英語力を急激に上昇しました(2008年の平昌オリンピックなどの影響という説も)。
韓国は欧米の英語勉強方法を取り入れ、取り入れるだけのインプット能力だけでなく、アウトプット能力にも力を入れています。
たとえば、インプットした英単語や文法などを使って、自分の考えを英語で述べる機会が多いです。
小学校からこのアウトプットを伸ばす環境があり、大学受験でもインプットがメインの日本とは違い韓国ではスピーキング能力も必要となります。
中国の英語教育
中国の英語教育は、以下の通りです。
中国の英語教育 | |
英語勉強開始時期 | 小学3年生 |
授業時間 | 3~4年:週4回以上(1回20分) 5~6年:週2回以上(1回20分もしくは40分) |
教育目標(一部) | ・英語学習の興味を喚起、積極的な学習態度を育成、 英語学習に自信を持たせる ・英語のリズムやイントネーションに慣れ親しませ、 自然な発音を身に付けさせる |
教育内容 | ・言語による実践的コミュニケーション能力の育成、 (特に文法を教えることはしない) ・6年生までの数字、色、時間、天気に関する話題で 600~700単語と50前後の慣用句を履修する |
中国でも2005年度より小学校3年生から英語は必修教科となっています。授業は週4回以上と多いのも中国の特徴の一つ。
早稲田大学教育・総合科学学術院教授教育学博士の新保 敦子氏によると、北京のある小学校6年生用の英語教科書をみたところ、日本では中学3年生で学ぶ内容で驚いたと言います。
中国全体では小学校3年生からと設定されていますが、北京や上海などでは小1から英語が必修科目として取り入れている、という背景があるからでしょう。
韓国が1997年から英語が小学校で必修化となり、シンガポールでは英語が共通語として使われていることも中国の英語教育に大きく影響しています。
フランスの英語教育
フランスの英語教育は、以下の通りです。
フランスの英語教育 | |
英語勉強開始時期 | 小学2年生 |
授業時間 | 週1~2単位 (1単位60分) |
教育目標(一部) | 【6~7歳】 ・異言語学習に対する意欲的な態度形成 ・新しい言語の音やイントネーションに慣れる ・新しい言語についての初歩の知識を身に付ける 【8~10歳】 ・異言語を使っての実際のコミュニケーションの開始 ・言語そのもの及びその言語が話されている国の文化への理解の促進 |
教育内容 | 【6~7歳】 ・ヒアリング能力の開発 ・役に立つ表演の習得 ・文化と言語の多様性 【8~10歳】 ・コミュニケーション中心の学習 ・規則的で体系的な「読む、話す、聞く、書く」の訓練 ・言語の意識化、異文化発見・国際的視野 |
フランスは、よくイギリスと対立をしていて英語を話さないといわれますが、実際にはそんなことありません。現在は英語を上手に話すフランス人が増えています。
フランスでは、指導方法は特に決まっていない点が大きな特徴の一つ。教科書はありますが、使う使わないは教師や学校が決めることができるのです。
フランスでは2007年から小学校2年生より英語が必修科目。小学校では「ゆっくり話せばある程度の会話ができる」が目標となっており、小学校を卒業する頃にはある程度の会話ができる子が多いです。
他にも、英語教育の場では能力別にクラスがわかれており、少人数制のためサポートが充実しています。これらのことから、学校で目指す英語力は日本よりも高いです。
ドイツの英語教育
ドイツの英語教育は、以下の通りです。
ドイツの英語教育 | |
英語勉強開始時期 | 小学1年生 ※州によって異なる |
授業時間 | 週2単位 (1単位45分) |
教育目標(一部) | 【1~2年生】 集中的に聞くこと、理解すること、 話すことが重視される。 【3~4年生】 コミュニケーション能力の発達を重視しつつ、 状況に応じた読解力と作文能力の育成が目指される。 |
教育内容 | ・言語学習方略 ・コミュニカティブな方略とアクティビティ ・言語手段の使用能力 ・一般的能力 |
ドイツは2003年より、小学校1年生から英語は必修教科となっています。週2回45分の授業を導入しており、会話力を中心に高めています。
2019年にGlobal English社が公表しているBusiness English Index(BEI)と呼ばれるビジネス英語力に関する国際指標の調査結果を参考にすると、ドイツは100か国中10位。
英語レベルも非常に高いのが、ドイツの特徴の一つです。
兵庫教育大学の田中正道氏によると、ドイツは外国語が必修科目となっているのですが英語を選ぶ生徒が圧倒的に多いそうです。
ドイツでは意思疎通の方法として、英語が重要視されています。
これは英語を取得することにより、全世界の人々とコミュニケーションをとることができると考えられているからです。
日本人が学校の英語教育だけで、英語を身に付けるのは難しいのかも
記事内で紹介した通り、小学生のうちから英語4技能を伸ばすという大きな目的をもとに、2020年からは日本の英語教育も少し新しくなりました。
ただ、日本の教育現場がそこまで劇的に変わることも想像しがたいですから、日本人が学校の英語教育だけで英語を完全に習得するのは難しい、というのがリアルな現状と言えるでしょう。
日本人が実践的な英会話を身に付けるためには、学校の英語教育で不足している部分を各家庭で補う以外の方法はありません。
また学校の教室には英語の発音が上手いと、それが恥ずかしい・笑われてしまうような独特の雰囲気があります。
これは、おそらく英語に親しみがないためですが、子どもが感じたままにのびのびと英語を発する機会があると、また英語スキルもグッと身に付くはず。
子どもの興味や身に付けたい英語スキルに合わせて、英会話サービスと併用するのが今のところは良さそうです。